まなび場ブログ

若い人たちとの対話

どのように苦手なのか

 僕が話しかけているのに、Aさんはまったく上の空の様子だった。そこで、「ちゃんと聞いてる?」と声をかけると、「私は耳から聞き取るのは苦手と言われていますから!」と言う。私にそんなことを言っても仕方ないよ、といった表情で。

 彼女は、「耳から聞き取るのは苦手で、書いたものの方が伝わりやすい」という特性を医療機関で指摘されていた。その言葉にとらわれて、話を聞こうとするのはムダな努力と思い込んでいるように僕には見えた。

 苦手といっても、どの程度、また、どのように苦手なのかわからないから、僕はとにかく普通に話しかけていた。確かに、彼女は、直接話しかけられていても自分が関心を持てない内容だと、全く耳に入っていないことがある。ところが、彼女のそばで僕が他の人と話しているとき、内容にちょっとでも興味がわくと、細大漏らさずに聞き取っているのである。

 彼女とじっくり関わっていると、耳から聞き取る力は、場面によっては他の人以上にあることが僕にもわかったし、本人もそのことを理解していったと思う。

 

 B君は、「俺は、人の気持ちを読み取るのが苦手」「空気を読めない」「それがもとで人とトラブルを起こす」と言う。さらに、彼には幻聴という症状もあった。ある日、彼はオセロをしていて、ちょっとまずい手を打った。で、相手があれっという顔をした途端、「お前、俺のことを”バカだなあ”って言ったな!」と怒り出した。僕を含めて数人がすぐそばで取り囲んで見ていたのだが、相手はそんなことを言ってないのである。幻聴なのだろう。でも、B君にそう言われてから考えてみると、確かに、相手の子が心の中で「バカだなあ」と感じていたに違いない空気がその時あったのだ。

 B君は人の気持ちを読み取れないどころか、僕なんかよりはるかに敏感にそれを感じ取っていたのである。僕だったら、なんとなく嫌な空気を感じてから、その漠然としたものの正体は何なのかを考えると思う。B君は、そんなまどろっこしいステップをふまず、からだが感じたことが直接的に声として聞こえたのか。

 彼が苦手なのは、空気を感じ取ることではなく、からだが感じとったことを頭できちんと理解することなのではないか、と僕は考えるようになった。

 

 人についても、自分自身についても、何が苦手かを知ることは大切だ。それは、耳で聞き取ることや、人の気持ちを読むことかもしれないし、勉強やスポーツかもしれない。ただし、「〇〇が苦手」といった一言では、その人(あるいは、自分自身)の苦手を理解したことにはならない。どのように苦手なのか、中身を具体的に掘り下げていかなければ、その人の面白さや魅力、そして、その人が持っている可能性を見落としてしまうのではないだろうか。