まなび場ブログ

若い人たちとの対話

悩む中で身についたものは何だろう

 まなび場で若者3人がこんな会話をしていた。

「過去のうまくやれなかった時のことばかり考えてしまって、前向きな気持ちになれない」

「すんでしまったことを考えてもどうにもならないよ。それより、本とか読んでみたらヒントがあるんじゃないの」

「自分の過去が一番の判断材料でしょ。自分の過去を考えずに本を読んでどうなんの?」

 

 三者のやりとりを聞いて、僕は、ある母親から聞いた話を思い出した。

 その人は子どもが発達上の大きな困難を抱えていたので、子どものことを理解しようと思って本を色々読んでいた。すると、「お母さん、本の中に私はいないよ」と言われてハッとさせられたという。生身の自分をちゃんと見て欲しいとその子は感じたのだろう。

 

 本の中にヒントがあるというのは本当のことだ。もやもやしてうまく表現できなかったことが、本の中でうまく言語化されていると、ああ、自分が感じていたのはこういうことなのか、と納得いくことがある。自分が気付いていなかった視点を本の中に見つけて、視野が広がることもある。とはいえ、本の中に答えがあるわけではない。目の前の現実と取っ組みながら、自分の頭で考え続けるしかない。

 

過去を思い悩むのはしんどいことだとしても、悩むことで身につくこともあると思う。

悩みの深い人と話していると、人の気持ちに対する敏感さや配慮、自分自身を振り返る誠実さなどが感じられることが多い。苦しい思いをしたからこそ、このようなあり方が身についてきたのではないだろうか。

 

 うまくやれないことがあったとき、ただ自分を責めるのではなく、そこには自分がうまくできにくい状況があったのではないかと考えてみることも大切だ。例えば、人間関係がうまくいかなくなったとき、もともと自分には合わない関係だったのではないかも考えてみる。自分を変えることは簡単ではないし、そもそも変える必要があるのかだって疑わしい。世の中には、様々な人がいるし、様々な空気の場がある。自分にあった人間関係や場を探していけばよい。これも、悩むことを通して見えてくることだ。

 

 自分のことを否定的に感じていると、そのことを人にはなかなか話せないかもしれない。しかし、一人だけで考えこんでいると視野が狭まっていき、自分をダメだと思う気持ちだけがどんどん高まっていくことがある。人に話すことは勇気がいるが、そこを乗り越えて話せると、それだけで心が少しほぐれるものだ。そこに、人との関わりも生まれる。

 

 すんでしまったこと自体は、どうすることもできない。でも、すんだことを思い悩むことで身につけたものの中には、活かすことができるものがあるはずだ。それは、自分の感じ方や態度の変化かもしれない。自分は何が苦手かをきちんと分かることかもしれない。人との新たな繋がりかもしれない。自分は悩む中で何を身につけてきたか、一度それを振り返ってみてはどうだろうか。